熱田千華子作品集
時事通信社 世界週報 2004年3月30日号
第71回:ケリー候補
 
"The outcome of the election directly influences the lives of citizens around the world.!"
「(米国大統領選)選挙結果は世界中の市民の生活に直接影響を与えます」


次期米大統領選の民主党候補がジョン・ケリー氏に決まった。私が住むマサチューセッツ州選出の上院議員で、ボストンの一等地ビーコンヒルに住んでいる。ケリー氏の地元に私はいるわけだが、少なくとも私の周辺でケリー人気は盛り上がっていない。私の友人には反ブッシュ派が多いが、積極的なケリー支持派はいない。

友人のエリックは、古い記事と断った上で、ワシントン・ポスト紙ウェブ版の記事を「まさに僕の気分」と送ってくれた。マイケル・キンズリーというコラムニストによる記事は、Democrats are cute when they're being pragmatic.「民主党が実際的になると実にかわいい」という一文で始まる。大統領候補選出の際は"If I were a Republican", they (Democrats) ask themselves, "which of these Democratic candidates would I be most likely to vote for?"「『もし私が共和党支持者なら』と民主党支持者は自問する。『どの民主党候補者に投票するだろう』」。その結果、ケリー氏が選ばれた、とするこのコラム。

途中まで人気があったハワード・ディーン氏が人々を非常に鼓舞したことを挙げて、コラムはさらにこう続く。He (Kerry) had been there all along, inspiring almost no one. You're not going to find John Kerry inspiring unless you're married to him or he literally saved your life. Obviously neither of those is a strategy that can be rolled out on a national level. But he's got the resume. And gosh, he sure looks like a president.「ケリー氏は常に政治の世界にいたが、誰も鼓舞はしなかった。ケリー氏と結婚するか、または彼が文字通りあなたの命を救ってくれたのでない限り、ケリー氏があなたを鼓舞することはないのだ。そして、その2つのオプションは国政の場で通用するわけがない。しかし、ケリー氏には経験がある。それに、ああ、ケリー氏はまさに大統領のように見えるのだ」。何とも情けない選出のされ方ではないか。

「アメリカを変える100日間」

ケリー氏の公式サイトへ行ってみた。ケリー氏は、100 Days to Change America 「アメリカを変える100日間」として、大統領就任後最初の100日間に成し遂げる10項目を挙げていた。(1) A new National Education Trust Fund 「新しい全国教育信託基金」(2) A News Era of National Service 「新しい国民兵役制度」(3) End of Era of Ashcroft 「司法長官アシュクロフト時代の終結」(4) Repeal Bush Assault on the Environment and Make U.S. Energy Independent 「ブッシュ政権の環境破壊を止め、米国をエネルギー面で独立した国家に」(5) Rejoin the Community of Nations 「国家間コミュニティーへの再参加」(6) First Major Legislative Plan: Affordable Health Care 「最初の大きな法制化プラン:価格が手ごろなヘルスケア法」(7) Reward Companies that Creates Jobs not Phony Corporate Profit 「偽の企業利益でなく仕事を創出する企業を支える」(8) Create a Middle Class Economy and End the Privileged Class Economy「特権階級の経済でなく中流階級の経済を創出する」(9) Cut the Deficit in Half in Four Years「赤字を4年間で半分に」(10) End Influence Peddling and Secret Deals「怪しいロビー活動、秘密の契約の阻止」とある。ケリー氏のポイントが明らかになっているだろうか。

ジョージ・ブッシュ現大統領の公式キャンペーンサイトへ行ってみた。ケリー氏と比べるためにも、President Bush's Agenda for Building a Safer, Stronger and Better America 「ブッシュ大統領のより安全で、より強く、より良いアメリカをつくる課題の一覧」のページへ行ってみる。挙がっているのは9項目。その中には Homeland Security: Protecting the American People 「国土安全保障:アメリカ国民の保護」、Compassion : The President's Compassion Agenda 「思いやり:大統領の思いやりの課題項目」、Education: Leave No Child Behind 「教育:どの子供も落ちこぼれさせない」、National Security: A National Security Strategy that Meets the Challenges of Our Time 「国防:時代の挑戦に対処するための国防戦略」、Environment: Observing the Beauty and Quality of Our Environment 「環境問題:環境の美しさと質の保護」などがある。

非アメリカ人が米大統領を選ぶ

いまひとつ両者の違いがピンと来なかったのだが、これは私がアメリカ人でなく実際投票するわけではないからかな、などとのんきに思っている時、次のサイトに出会った。

ワールドボーツ「世界は投票する」という名のサイト(編集注:今は存在しない)で、非アメリカ人が米大統領選の直前に同サイトを通じて大統領選を実施、その結果を発表して、アメリカ人が実際投票する際の参考にしてもらおうという趣旨のサイトだ。

11月2日に予定されている同サイトでの選挙に向けて、投票者の登録を呼び掛けている。現在、ヨーロッパを中心に約5500人の登録人がいる。もちろん、この結果はオフィシャルな意味は持たない。しかし、同サイトが言うように、The outcome of the election directly influences the lives of citizens around the world. 「(米国大統領選)選挙結果は世界中の市民の生活に直接影響を与えます」。その通りだ。だからこそ、世界の声をアメリカ国民に伝える意味がある。

さらにサイトには、Thewoldvotes.org is most certainly not intended to be an anti-America or anti-G.W.Bush platform. 「このサイトは反米、反ブッシュを意図したものでは全くありません」とただし書きがあった。

つい高見の見物気分になりがちな大統領選。しかし、私も税金をアメリカ政府に払っている。実際投票するとなると真剣味が違うだろう。同サイトに登録し、しっかり選挙運動の行方を見守って同サイト上で投票し、その上で大統領選を迎えたい。


(時事通信社 世界週報連載『熱田千華子のあめりかインターネット暮らし』より)